「……ただ。腫瘍のまわりにたくさん大切な神経が通っているんです。
手術をするときに、完全に取り除くには神経を傷つけてしまう可能性があります。

その場合、記憶障害が出るかもしれません。」


「…記憶障害って。」


雷で打たれたような衝撃が走る。

心臓が苦しいくらいに嫌な音を立てて、頭がくらくらした。


先生は、そんな私を気遣うように優しく、丁寧に。

変わらない残酷な現実を告げる。


「今までの記憶がなくなってしまう可能性があります。
無くなった記憶は、すぐに思い出せることもあるし、ずっと思い出さないこともあります。」


聞いた途端、私の頭には、家族や友達との楽しい思い出が流れ込む。


これからもたくさん思い出を作って、大人になって皆で思い出話をしよう。

将来、思い出して笑えるような、楽しい思い出をいっぱい作ろう。

そんな約束を、皆でしていたことを思い出す。


「菜摘さんのお父さんもお母さんも手術に賛成です。手術は早い方がいいので、今日から入院して今週末にでも…」

「ちょ!ちょっとまってくださいっ!」


私の気持ちなんてお構い無しに、どんどん進んでいく話に、私はストップをかけた。