暑い日の中、手を繋いで歩く。
しかし、少しずつ彼女の顔が、少し強ばっているのを感じた。
必死に笑顔を作っていたけれど、足取りも重くなっている。
「黒葉?どうした……?」
「足、痛くなったか?」
「いえ!旅行なんて初めてなので、少し緊張してしまって。」
「そうか。でも、楽しいことなんだから、緊張しなくてもいいんだぞ?」
「そうですよね……。」
葵音の言葉を聞いても、彼女の顔は柔らかくならなかった。
それがどうしてなのかもわからず、葵音はただ彼女を心配そうに見つめ、強く手を握るしか出来なかった。
きっと、プラネタリウムへ行けば、黒葉もいつもの笑顔に戻るだろう。
そう思っていた。
2人で歩いていくうちに、黒葉と初めて会ったコーヒーショップが見えてきた。
その先には初めて会話を交わした交差点もある。
まだ数ヵ月しか経ってないのに、とても懐かしく感じてしまうのは、その間の毎日がとても充実していたからだろうと、葵音はわかっていた。
彼女が来てからは、毎日が色鮮やかになり、心が落ち着いていた気がした。
出会ったばかりの頃は、こんな関係になるなど思ってもいなかった。
けれど、こうして一緒に暮らし、手を繋いで歩く恋人同士になってから思うと、彼女に会えた事は奇跡であり、運命なのかもしれない。
そんなバカげた事まで思ってしまう。
それぐらいに、葵音の中では彼女の存在は大きくなっていった。
昔に人間関係を壊されてしまった葵音は、きっと結婚もしないで一生を仕事をして終えていくのだろうとさえ思っていた。
けれど、彼女に会ってからは違った。
恋人同士になってから、いつまでも一緒にいたい、そして自分のものにしたいと思っていたのだ。
だからこそ、彼女との未来も真剣に考えるようになっていた。
そんな自分が葵音には信じられなかったけれど、それでも彼女との未来を、一緒に考えていきたいと思っていた。
そう思うと、この出会いの交差点は大切な場所になるだろうな、と葵音は思った。
2人手を繋いで、ゆっくりと道を歩く。
コーヒーショップを過ぎ、もう少しで交差点に着きそうな時だった。
黒葉がぎゅっとして強く手を握った。そして、「葵音さん。」と、雑踏で消えてしまいそうな声で、葵音を呼んだ。
そして、ゆっくりと歩きながら葵音の瞳をまっすぐに見つめていた。