そして、今日は彼女の視線を感じることが多かった。こういう行為にまだ慣れていない黒葉は、いつもならば恥ずかしがって、目を瞑ってしまう事が多かった。
 けれど、今夜の黒葉は違った。
 しっかりと、葵音の方を見つめており、ほとんど目を強くとじる事はなかったのだ。

 目は少しぼんやりとしていたけれど、涙を浮かべて葵音から与えられる熱に翻弄されながらも、見つめてくれる。

 黒葉と見つめあって抱き合うのは、恥ずかしさもありながらも、気持ちを高めてくれた。そして、求められているように感じた。


 「あっ………葵音、さん……ぎゅっとして………くださぃ……。」


 途切れ途切れの言葉でそう言いながら、葵音の首に腕を絡めて、自分から抱き締めてくる。
 
 彼女から求められるのは嬉しい。 
 幸福感を感じながら、彼女を抱き締めるの、少し体が震えてるのがわかった。

 彼女は本当に泣いているのだ。
 そう思った瞬間に、彼女の行動の意味が繋がった。

 この時間を頭の中に刻むように、目を開いて必死に見つめていたのだ。
 そして、今日葵音を求めたのはそうなのではないか?
 彼女は必死に思い出を作ろうとしているように感じたのだ。



 それがわかったとしても、その時の高まった熱を抑えられることは出来ない。
 葵音は、彼女が望むように体を抱き寄せて熱を与えるしか出来なかった。







 「思い出か………。何をそんなに怖がっているんだ?」


 すぐに寝てしまった彼女にそう呟いても返事を、するはずもない。
 乱れた髪を撫で、目尻に溜まっていた涙を指ですくいながら、彼女の寝顔を見つめた。


 「明日、沢山思い出を作ろうな。」


 臆病な葵音は、ただそう言う事しか出来なかった。

 そんな自分にため息をつきながら、葵音は黒葉の隣にけだるい体を倒して目を瞑った。