その日から、黒葉は遅くまで部屋に籠る事が多かった。
昼間は今まで通りに家事をこなし、夜は葵音が作業を終える頃まで自室にいたのだ。そして、葵音が眠る頃に部屋から出てきて一緒に眠るのだ。
それ以外は全く普通の日々だった。
白いワンピースに関しては、とても心配していたけれど、1度黒葉の部屋のドアが開いたときに、壁にあのワンピースがかけられているのを見て「気に入ってくれたんだな。」と葵音は安心した。
きっと、あの時の表情は驚いただけで、葵音が気にしすぎていただけだろう。そう思うようにしていた。
そんな日を過ごし、あっという間に旅行の日の前日になった。
葵音は旅行中は仕事をしないで、黒葉との時間を満喫しようと、いつもよりペースを早めて仕事を終わらせていた。
そのため、いつもより仕事が早く終わり、葵音も簡単には旅行の準備をしている時だった。
トントンッと部屋の扉がノックされた。
もちろん、黒葉だ。
「どうぞ。」と彼女を招きいれようとすると、彼女は真っ白なパジャマを着たままその場に立っていた。
「あの、また星を見に行きたいんですけど……今夜も湖に行ってもいいですか?」
新月の夜は、こうやっていつも夜の散歩を誘って来ていた。
けれど、その日は新月ではなかったので、月がとても綺麗に輝いている夜だった。
けれど、黒葉の表情があまりに真剣で、そして儚くみえてしまい、何も聞き返さずに、葵音は頷いたのだった。