黒葉は、サンダルとカーディガンをソファに置いてから、また袋に手を伸ばした。
 そして、葵音が一目惚れをした白いワンピースを手にして、黒葉がそれを見た瞬間。

 彼女の瞳が揺れた。
 絶句した表情のまま、顔が硬直してしまっている。
 予想外の反応のまま呆然とする黒葉を見て、葵音は驚いてしまった。

 白いワンピースで、そこまで驚かれるとは思ってもいなかったのだ。彼女が苦手なのかもしれないとは思っていたが、これほどまでとは想定外だった。

 
 「黒葉………そんなに白いワンピースが嫌いだったのか?」
 「っっ!!」

 
 葵音が小さな声でそう言うと、ボーッとしていた彼女は、やっと意識を葵音に向けた。
 けれど、その顔は青ざめており、動揺が見られていた。


 「おまえ………どうしたんだ、その顔。そんなに嫌なら、こんなの着なくてもいいんだ。俺のワガママなんだ。」
 「……………このワンピース着たいです。」
 「黒葉………。」


 黒葉は、繊細な白いワンピースを大切そうに抱き締めると、葵音の方をまっすぐ見つめた。


 「葵音さんが選んでくれたワンピースなんですよ。とっても嬉しいです。」
 「………。」


 その言葉自体は、嬉しい幸せを含む言葉かもしれない。
 けれど、黒葉の口調はとても苦しそうで、そして、切なげだった。
 
 そして、黒葉の顔は今にも泣き出してしまいそうだった。