そんなある日。
 外で取引先の相手と食事をしながら話をした時だった。
 帰りに街を歩いていると、葵音の目に止まった物があった。

 それはウィンドウディスプレイに飾られている、白のレースのワンピースだった。
 可愛いすぎない綺麗なレースで作られており、とても華やかだった。
 背中には、アクセントに黒のリボンが編んであり、少しクールさもあった。


 「これ……黒葉に似合いそうだな。」


 そのディスプレイの前に立ち止まり、そのワンピースをボーッと見つめていた。
 目の前には、このワンピースを着た彼女が微笑んでいる姿が想像でき、思わずつられて微笑んでしまいそうになる。


 「お客様、そちらのワンピース、お気に召していただけましたか?」
 「あ………あぁ。」

 どらぐらい見つめていたのだろうか。
 店の中から、若い女性がニコニコと話掛けて来た。

 「プレゼントでお探しでしたか?」
 「そう、ですね。……似合うかな、と思って。」
 「このワンピースはレースがオリジナルでとてもこだわっているんです。きっと、喜んでいただけると思いますよ。」
 

 これをプレゼントした時に、嬉しそうに笑ってくれる彼女の顔が頭の中で再生される。
 けれど、黒葉は1度白いワンピースを勧めた時に、激しく拒否した事があったのを葵音は思い出した。
 
 黒葉は白が嫌いだろうか。
 何故あんなに嫌がったのかはわからない。

 けれど、このワンピースを着た彼女を見てみたい。
 そんな風に思ってしまったら、その気持ちを止める事は出来なかった。


 旅行の時に着て貰うためのプレゼントにしよう。
 そう思いついた時には、ワンピースだけではなく靴や羽織る夏用のカーディガンまで買ってしまったのだった。




 「ありがとうございました。」


 店員に見送られながら、葵音は買ったばかりのショップバックを見つめた。
 女物の店の袋を持つのは気恥ずかしかったけれど、それも黒葉のためと思えば平気だった。


 「あいつ、受け取ってくれるといいけどな。」

 そんな事を呟きながらも、葵音は黒葉の笑顔だけが頭に浮かび、ニヤついてしまう顔をどうにか抑えながら帰路についたのだった。