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 「黒葉…………?」


 夜中にやっと仕事が終わり、寝室に戻る。
 しかし、そこには黒葉の姿はなかった。
 普段ならばすでに寝ている時間だったけれど、時々夜更かしをして本を読んだり、ジュエリー作りの復習をしている事があった。



 「………今日は夜更かしの時間か………けど、そろそろ寝かせるか。」


 時計を見ると、もう夜中の2時なる頃だった。
 葵音はあくびをしながら、彼女の部屋に向かい、ドアをノックした。
 けれど、返事がない。
 寝てしまっているのだろうか?そう思いながら、葵音はドアノブに手を掛けた。



 「黒葉………開けるぞ?」


 葵音はそう声を掛けてからドアをゆっくりと開ける。


 すると、黒葉が窓辺に佇んでいるのがわかった。夜空には星がキラキラと輝いているのに、光が薄い。今日は新月なのだろう。
 
 暗い部屋の中でぼんやりと見えるのは彼女の横顔だった。


 ゆっくりと部屋に入ると、闇に溶けてしまいそうな彼女に手を伸ばした。
 
 
 「黒葉………。」


 近くに来て、やっと彼女の顔が見えた。
 黒葉の瞳からは涙が流れていた。

 まっすぐに伸びた艶のある黒髪に白い肌には一筋の涙。
 儚い表情の彼女の姿は、美術館に飾られているようなそんな神秘的な美しい絵のようだった。


 名前を呼ぶと、黒葉は少し遅れて葵音の方を見た。
 その瞬間に、彼女の顔は一気に歪んだ。

 そして、そのまま葵音に抱きついてきた。



 「………葵音さんが好きです………。」


 彼女が涙ながらに溢した言葉。
 
 それは葵音がずっと待ち望んでいたものだったのに、何故か泣きそうになってしまったのを、葵音はいつまでも覚えていた。