☆★☆




 今日は新月の暗い夜だった。
 昼間の雨雲はすっかりとなくなり、今は綺麗な星空が広がっていた。
 今年の梅雨は、あまり雨も多くないのでよく星が見えた。


 黒葉は、葵音から借りている部屋の窓から夜空を見上げていた。

 キラキラの輝く星を何度見ていただろうか。
 きっと黒葉は星を見るのが好きなのだろう。
 だけれど、それは半分嘘だった。
 星は好きだけど大嫌いだった。



 「葵音さん………、どうしてあんな事したんだろう。」


 昼間の事を思い出し、黒葉はまた顔を真っ赤にした。
 突然のキスに、今でも鎖骨に残る赤いキスマーク。

 それの赤い跡に触れると、何故か熱があるように感じてしまう。彼に唇を当てられたように。


 彼の熱を感じるのは嫌いではなかった。
 むしろ、体は喜び、気持ちも高まった。
 それなのに彼に近づく度に、終わりが近くなってしまうようで、怖くなってしまうのだ。

 葵音は少しずつ自分に心を許してくれているのもわかっていた。
 口づけをしてくれるのは、もしかしたら………と考えてしまう事なんて、何度もあった。

 けれど、そういう関係になってしまったら。
 
 
 恐怖で次に進めなかった。
 

 けれど、彼に触れられたい。
 彼を独占したい。
 好きになってほしい。
 …………葵音の体温と香りと彼自身を感じたい。
 
 彼と共にいるうちに、その願いが大きくなっていくのだ。

 

 「葵音さんが好き。」


 首筋に手を添えたまま、小さな声でそう呟いた瞬間だった。


 葵音はまたあの感覚を感じて、両目強く閉じて、両手で目を押さえた。
 涙がぼたぼたと大量に流れてくる。


 「あぁ…………イヤっ…………いや…………。」


 大きな声を出したら彼が心配してしまう。
 それだけを思いながらも、目を押さえながらじっとその時間を堪えた。
 涙が手や、腕、パジャマや床落ちる。
 

 息を荒げながら、黒葉はその苦痛の時間を必死に堪えた。