震えも止まり、落ち着いてきた黒葉を見つめて、葵音はホッと小さく息を吐いた。

 すると、黒葉がボソッと呟くように小さく言葉を発した。


 「白いワンピースは嫌いです。」
 「………そうだったのか。悪かったな。」


 泣きそうな声でそう言った黒葉を、葵音は優しい言葉で受け止めて、頭を撫でた。


 「俺は似合うと思ってんだ。真っ白な服が……だから、そうだな………夏にでも着てみてくれ。おまえが嫌なら無理はしなくてもいいけどな。それを来て、また水族館にイルカを見に行こう。」
 「………はい。」


 黒葉は、葵音の顔を見ようとせずにただ呆然と下を見つめたまま、返事をした。
 けれど、持っていたイルカのぬいぐるみの袋を強く握りしめているのを見て、葵音はこっそりと微笑んだ。


 「さ、お腹空いただろ。ハンバーガーでも食べないか。」
 「………はい。」


 やっと葵音を見た黒葉の顔には困り顔だったけれど、少しだけ元気が出たように見えた。
 彼女の手にあったイルカのぬいぐるみのお陰のようだった。



 そして、レストランに向かっている時だった。


 「あれ?葵音………!?」
 「…………累っ!」


 そこにいたのは、黒髪を肩ぐらいまで伸ばし、後ろで結んでいる、切れ長の瞳の男だった。葵音よりも背が高くやせ形で、白いワイシャツに黒いズボン、そしてロングのカーディガンを着ている。
 モデル体型の彼は、とても目立っていた。 
 そして、その男は葵音の古い友人で、親友と呼べる男だった。


 「相変わらず目立つな、おまえは。」
 「そんな事はないよ。お2人さんの方が目立っていると思うよ。………で、その美人さんを紹介してくれるのかな。」
 「………したくないが、しないとお前は調べるだろうからな。」
 「正解ー。」


 葵音はため息をつきながら、後ろを振り向く。黒葉は、少し緊張した表情で2人のやり取りを見ていた。


 「黒葉。こいつは、俺の友達の累だ。まぁ、親友みたいなもんだな。そして、有名な占い師でもある。」
 「よろしくね、黒葉ちゃん。」
 「う、占い師…………。」



 それを聞くと、黒葉はとても顔をして、少しの間固まってしまったのだった。