「隣にショッピングセンターとかレストランあるみたいだな。行ってみるか。」
 「……そうですね。お腹空きましたね。」


 葵音は黒葉の手を繋ぎながら歩き始める。
 レストランに向かう途中で、若者向けのショップが並んでいるところがあった。黒葉にも似合いそうなものがたくさんあった。


 「そういえば、黒葉。洋服はいいのか?春になったし増やした方がいいんじゃないか?」
 「今ので大丈夫です。必要になったら買おうとは思ってますけど……。」
 「ほら、あの白いワンピースなんて似合いそうだそ。肌も白いし………。」


 葵音がトルソーが着ている白いシンプルなワンピースを指差してそう言うと、黒葉の顔色が変わった。


 「白いワンピースはダメですっ!!」

 
 黒葉は大きな声を出し、真っ青になって葵音の言葉を拒否した。
 葵音は、彼女の突然の反応に戸惑い、唖然としてしてしまう。
 周りを歩いていた人達も、大きな声に驚いてこちらをちらちらと見ている。


 「おい……どうしたんだ?」
 「あっ………あの、私……………。」


 繋いだ手が震えているのがわかり、葵音は驚いてしまう。彼女の手を引いて、近くのベンチに座らせた。


 「黒葉………、急にどうしたんだ?何か嫌なことがあるのか?」
 

 顔色が悪いまま、俯いている彼女の顔を除き込む。
 ただ彼女は小さく震えている。

 葵音は、彼女の手を握りしめたまま、何も言わずに彼女の隣りに座っていた。
 今は何を聞いてもダメなんだろうと、葵音は思い、彼女が落ち着くのを待っていた。


 やはり、黒葉には何か怯えるもの、そして話せない秘密があるのだと改めてわかった。
 それが気にならないと言ったら嘘になるけれど、黒葉が伝えたくないのだから無理に聞けるはずもなかった。
 それに、彼女との関係は、ただの家政婦と雇い主というだけなのだ。
 恋人でもない黒葉の秘密に、触れることなど出来るはずもなかった。

 だからこそ、自分の隣にいる時ぐらいは笑っていられるようにしたい、そんな風に思っていた。
 けれど、その気持ちを少しずつ変わり始めていた。
 ………黒葉にもっと近づきたい。
 彼女が悲しむ理由を知りたいと。