葵音が、優しく声を掛けると黒葉は、少し怒った表情のまま葵音の方を向いた。
そして、差し出された手のひらを見つめた。
「ほら。手、繋がないのか?」
彼女の目の前に手を広げて差し出すと、その時には黒葉の顔に怒りの色は消えていた。
葵音の手に彼女の白くて細い手がゆっくりと添えられる。冷たくなった手を温めるように、葵音がぎゅっと握りしめると、黒葉は照れ笑いを浮かべた。
そのまま、立たせるように手を引っ張ると、黒葉もゆっくりと立ち上がった。
2人は手を繋いだまま、静まり返った夜道を歩いた。
黒葉は葵音の隣を歩き、そして葵音を見つめていた。
その視線に気づいた葵音は「どうした?」と彼女に問いかけた。
「葵音さん、帰って寝る時も手を繋いでいていいですか?」
「いいけど……どうしたんだ、急に。」
「……そうすれば素敵な夢が見れるような気がするんです。」
それは、怖い夢を見るからだろうか?
彼女が少し複雑な顔をしているのを、葵音が気づかないはずとなかった。「わかった。」と答えると、黒はは安心したようにホッと小さく息を吐いた。
葵音の部屋に戻った2人は手を繋ぎながら眠った。
けれど、葵音は不思議な夢を見たような気がした。
ハッと目を覚ました時に、瞳から一筋の涙が流れていた。
けれど、肝心の夢の内容は全く覚えておらず、目覚めた瞬間に溶けてなくなってしまったようだった。
隣りですやすやと眠る彼女を見つめる。
すると、険しい表情のまま葵音と同じように涙を流していたのだ。
黒葉の涙を指で優しく掬い、葵音は目を閉じた。
けれど、先程の夢の続きを見ることは出来なかった。