まだ黒葉は自分に全てを話してくれないのだ。それがわかった瞬間だった。
 彼女は何か秘密がある。
 それは前から知っていたことだった。
 けれど、黒葉との距離が少しは近くなったのかと思ってたが、全く変わっていないように葵音は感じてしまったのだ。

 それなのに、彼女は自分に笑顔を向ける。
 その矛盾が、葵音の気持ちをざわつかせた。
 気づくと、彼女の名前を呼び、手を伸ばして顔を引き寄せていた。



 「黒葉……。」
 「はい?………っ………。」
 

 彼女の無防備な表情が見えた。
 けれど、それもすぐに見えなくなる。
 彼女がとの距離が0になったからだ。

 黒葉の柔らかくて少し冷たい唇の感触。
 そして、サラサラとしたストレートの髪に、優しい香り。それらを感じながらも、葵音は冷静に彼女を見つめていた。

 黒葉は驚き、体を硬直させたけれど、その後は葵音が与えるキスを受け入れていた。
 うっすらと目を開けると、口づけに慣れていない黒葉はギュッと目を瞑っている。
 その姿を見るのと、微笑ましくそして安心してしまい、葵音の肩の力も抜けてきた。

 ゆっくりと体を離すと、黒葉は暗闇でもわかるぐらいに顔が真っ赤になっていた。


 「………なんで急にキスしたんですか?」
 「気まぐれだ。」
 「なっ!!葵音さんは、悪い男の人みたいですっ!」
 「それでも俺を気になってくれてるんだろう?」
 「知りませんっ!」


 プイッと背を向けて、黒葉は少し怒った様子を見せた。
 けれど、葵音には恥ずかしさから来るものだとわかっていた。


 葵音はゆっくりと立ち上がり、服についた砂や草を手で払いながら、「あー……眠くなってきたな。」と独り言のように言いながら体を伸ばした。

 そして、黒葉に手を差し伸べした。


 「ほら、黒葉。家に帰るぞ。」