10話
こちらを向いた彼女の瞳は、自分を見ずに遠くを見ていたように葵音は感じた。
葵音の方を向いた黒葉は、まだ何も言わずにポロポロと涙を流しているだけだった。
「黒葉、どうした?おい………。」
「…………葵音さん……?」
黒葉はボーッとした顔でこちらを見た後に、ハッとして、慌てて葵音に向かって頭を下げた始めた。
「ごめんなさい!待った勝手に家から出てしまって……。」
「………。」
葵音が怒っていると思ったのか、少しおどおどした表情でそう言うと彼女に、葵音がゆっくりと手を伸ばした。
そして、彼女の頭をそっと撫でた。
本当ならば怒るところなのだろう。
今までの自分ならばそうしていたと葵音は思う。
けれど、泣いている彼女が、とても小さくて幼い子どものように見えたのだ。
何故泣いていたのかなど、葵音にはわからなかった。
ただ、その涙が、黒葉の悲しみが、彼女から消えてなくなればいいのにと思ったのだ。
「葵音さん……。」
「どうしたんだ、こんな所に来て……。」
何で泣いているんだ?とは聞かなかった。
彼女が話したければ話すだろうと葵音は思った。
もしかしたら、泣いているところを見られたくなかったのかもと思ったのだ。
「今日は新月なんです。」
「あぁ、だからこんなに暗いのか。」
「……月がない日は、星が綺麗に見えるんです。だから、ここに見に来ました。」
葵音が彼女の頭から手を離すと黒葉は、寂しげに夜空を見上げた。
星空をわざわざこんな所まで見に来たのに、そんな顔をする意味があるのかと聞いてみたい気持ちを、葵音はぐっと堪えた。