黒葉の寝ているベットには、イルカの人形や、事故で壊れてしまった黒葉の作ったジュエリーとイルカのチャーム、そして、ジュエリーの本などが置いてあった。
 それらすべてに彼女との思い出がある。
 彼女がいない自宅にだって、彼女がいた記憶が残っている。


 「なぁ………早く目を覚ましてくれよ。その瞳で俺を見てくれないか?………黒葉の声が聞きたいよ。思いっきり抱き締めてやるから。事故の事怒らないから………プラネタリウムにも連れてってやるから。………だから、俺を一人にしないでくれ。」



 思い出話をしたからだろうか。
 今まで我慢していた感情が爆発してしまった。

 黒葉の笑った顔を見たい。
 抱き締めてキスをした時の、恥ずかしそうな顔。
 怒った顔でも、泣いた顔でもいい。

 そして、「葵音さん。」と、優しく名前を呼んで欲しい。


 当たり前だった、あの日々を取り戻したいだけなんだ。
 黒葉が目覚めてくれれば………目を開けてくれればいいだけなんだ。


 そう願って、涙を流しながら彼女の手を包み込むように両手で優しく握りしめる。

 けれど、返ってくるのは彼女の体温と、機械音、そして小さな鼓動だけだった。





 

 その日、部屋でプラネタリウムの光をつけた。天井や白いカーテンに星の光が輝く。
 偽物であっても夜に黒葉が目を覚ましたら喜ぶだろう。
 葵音は、彼女のベットに顔を乗せたまま天井の光の星たちを見つめた。


 星詠みで力を貸してくれた星達は、黒葉を見てくれているのだろうか?
 もし見ているのなら、少しだけでもいいから、力を貸して欲しい。



 彼女が目を覚ます方法を教えて欲しい。



 そう願いを込めて、葵音は目を瞑った。