「その後は、もちろん婚約は解消。そして、デザインしたものも俺のものだと証明したよ。友人にも見せていたし、原本を持っていたのも、数年前に他のジュエリー会社に見せていたのもあってね。発表してしまったものはもう取り戻せないけれど、彼女はデザインの窃盗をしたという事で、有名ジュエリー作家として活躍することが出来なくなったよ。……………今考えればそこまでする必要なんてなかったかもしれない。けれど、彼女から与えられた傷はあまりにも大きかったよ。…………そこからだよ。人を信じすぎない、特に女性を好きになろうとは思わなかった。遊びで付き合って、楽しんで、一度きりからだの関係を済ませる。それだけで、いいって思ってた。」


 葵音は、そう吐き出すように言った後。
 目を細めて、黒葉を見つめて優しく頭を撫でた。さらさらとした黒い髪は、事故に遭う前と何も変わっていなかった。

 月のネックレスを毎日していたのは、いつでも思い出して誰かに夢中にならないためだった。そのネックレスは婚約者が盗んだ1つだったのだ。運よくこれはブランド側からダメ出しをされ、商品化しなかったもので、それを葵音が作り直したのだった。
 誰も信じないで自分だけで生きていこう。そう決めた証だった。

 けれど、今は違う。
 これは、黒葉と自分を繋げてくれた大切な宝物なのだ。

 大切な人が自分を見つけてくれるきっかけになった宝物。
 事故にも耐えた大切なものなのだ。


 「けど、黒葉と会って、話をしていくうちに………惹かれていったし、おまえなら信じたい。おまえに俺を信じていて欲しいし、好きでいて欲しい。ずっと手を繋いで行きて生きたい。そう思ったんだよ。おまえと過ごした時間は、何よりも大切で輝いていて…………また、あの家でお前が待っていて欲しいんだ。」