今も黒葉の胸でキラキラと輝くもの。
星をモチーフにしたシルバーのネックレスだ。それは、葵音が身に付け続けている、月のネックレスと同じデザインだった。
黒葉が初めて葵音に会ったときに、これと同じ物を作って欲しいと頼んだものだった。
葵音は、仕事とお見舞いの合間を見て、完成させたものだった。
黒葉と一緒に住んでいる頃から作っていたもの。
彼女が欲しがっていたものをプレゼントしようと準備していたのだ。それを完成させて、寝ている彼女にそのネックレスを首にかけてあげた。
すると、ほとんど動かなかった手が、その日ピクッと動いたのだ。手を繋いでいた葵音の手を優しく握りしめるように。
それを見た時に、寝ていてもきっと現実の事を見ていてくれている。喜んでいてくれているのだとわかり、葵音は勇気が出たのだった。
「そういえば……おまえに話してなかったな。俺がどうしてこの月のネックレスにこだわっているのかを。……少し長い話になるが聞いてくれるか?」
葵音は、迷ったけれど昔の話をすることにした。彼女は喜ばないかもしれない。
けれど、話しておきたいのだ。
どうして、星のネックレスを作るのを拒み、黒葉を受け入れるに、時間がかかったのかを。
「実は、数年前にある女性と婚約していたんだ。同じジュエリー作家で、お互いに尊敬出来る存在で……俺は初めて結婚したいと思えた女性だった。真面目で、明るくて………そして、可愛いと思えた。けど、あいつは違ったんだ。」
話す事でさえ、嫌で思わず彼女の手を強く握ってしまう。
けれど、じんわりと彼女の体温を、感じると少しずつ落ち着いてくる。
はーっと息を吐いてから、また話を続ける。
「結婚が迫ったある日。俺が大切にしていたジュエリーのデザインのものが大手ブランドから発売されたんだ。………それを手掛けたのは、もちろん俺の婚約者だった。………あいつは、俺のデザインに惚れて、盗むことが目的だったんだ。」
今でも目を瞑れば思い出す。
新作発表会で見た、自分の自信作のジュエリーが並べられているのを呆気にとられた顔で見ているのを。
そして、キラキラとした笑顔でインタビューに答え称賛を浴びる婚約者の自信に満ちた顔を。
「もちろん、帰ってきてから彼女に問い詰めたよ。どうして勝手にデザインを盗んだのだとね。………そしたら、彼女は『結婚したら財産は共通でしょ?そしたら、あなたのデザインを使っても構わないわよね?お金が入るなら、誰が作っても同じでしょ?』と、言われたよ。………頭を思いっきり殴られたような衝撃というのは、こういうのだろうと思ったぐらいに、驚いたし………悲しかった。」
大きくため息をついて、当時の映像を頭から消そうとする。けれど、それはどうやっても消える事などなかった。
今でも時々夢に見る、悪夢だった。