「それでは、用件は以上です。次は、黒葉さんとの結婚が決まりましたらご報告だけ来たいと思います。………彼女が、それを望んだならば。お時間ありがとうございました。」


 そういうと、葵音は小さくお辞儀をして、早足で平星家から出たのだった。


 祖母は最後まで「ごめんなさいね。」と謝っていた。
 祖母にだけは、黒葉が目覚めたときに連絡をしよう。そう決めて連絡先を聞いてその家を後にしたのだった。




 「まぁ……こんな感じだな。」
 「なるほど……だから、さっきから怖いオーラを発していたんだね。」
 「そうか?まぁ、怒ってはいるな。」
 「当たり前だよ。好きな人の両親が、娘の心配してないなんて、悲しすぎる。」
 「………普通は普通じゃないんだな。」


 両親は子どもを愛するもの。
 それはみんなが同じではないと、葵音だってわかっていた。けれど、親しい人が実際にそういう関係になると、やはり複雑な気持ちになってしまうものだった。

 一言でもいいから、「娘は大丈夫ですか? 目覚めますか?」とか「入院している病院を教えてください。」とか、黒葉を心配しているような態度を見せてほしかったと、葵音は何度も思った。



 「黒葉ちゃん、可愛そうだ。…………その家で必死に生きていたんだね。」
 「………俺のために、自分を犠牲にして、な。少し怒ってるし悲しいけど、あいつが守ってくれたかったら、今日の事もなかったし、あいつとも出会わなかったんだと思ったら、黒葉を責めることなんて出来ないんだ。」
 「うん。起きたときは、ちゃんと笑顔で迎えてあげてね。」
 「あぁ………そうだな。」


 薄暗くなってきた夜道に、一番星がキラリと輝いていた。
 星を見ると落ち着く。
 きっと、未来はあの星のようにキラキラとしているのだろう。

 そんな以前だったら「恥ずかしい言葉だな。」と思ってしまうような事を、思ってしまう。
 それは全部彼女のおかげなのだろう。

 綺麗なものを、綺麗だと愛でる。
 愛しいものを、好きだと愛せる。

 それがどんなに幸せなことだと気づかせてくれたのは黒葉なのだ。



 今はまだ寝ている黒葉だけれど、今日の事を話そう。
 そう思って、葵音は車を走らせた。