「事故にあいそうだった俺を助けてくれたのは黒葉です。今は病院で意識が戻らずに寝ています。黒葉さんに助けてもらって、俺はとても感謝しています。」
 「……それで、今日はここに何をしに来たんですか?黒葉の入院のお金でも貰いに来たんですか?」
 「………なんて事を言うんだい………。」


 黒葉の父親の言葉を聞いて、驚いた声を上げたのは隣りに座る祖母だった。
 葵音は驚いたものの、先ほどからの態度で少し納得してしまった。この両親は黒葉と全く似ていない。
 黒葉をお金でしか見ていないのだとわかった。



 「……ここに来たのは、黒葉さんの手紙で両親に返していないお金を返して欲しいと書いてあったからです。……こちらになります。」
 「あぁ、そういう事だったのか。」

 葵音がお金の入った封筒を何個かテーブルに並べると、やっと両親から笑顔が見られた。
 やっぱりそうなのかと、葵音は妙に冷静になりながら彼らの浮わついた顔を見つめた。


 「黒葉が頑張って稼いだお金でしょ?入院とか治療のお金に………。」


 隣では、なんとか両親を説得しようと声をかける黒葉の祖母がいたが、葵音はそれを首を振って止めた。



 「……そのお金は黒葉のではありません。私が持ってきた物です。」
 「なっ………。」
 「黒葉のお金は黒葉に使って貰います。そこには、黒葉があなたちに用意した以上のお金が入っています。………それでしたら、構いませんよね。娘さんに怪我をさせてしまったお詫びだと思って受けとってください。」
 「あ………あぁ。そういう事なら。」
 「……構いませんよね。」


 睨み付けるように葵音がそう言うと、おどおどとしながらもお金を受け取った。それを見て、祖母はあきれた顔でため息をついたのだった。