「黒葉は無事なのですよね?」
「………命に別状はなかったのですが、意識は戻ってないです。」
「そう………。黒葉ちゃん、頑張ったのね………。」
黒葉の祖母は、祈るように目を瞑った後、強い雨粒が打ち付けている窓を見つめた。
「あの、あなたは星詠み人なんですか?」
「えぇ、そうよ………。ここに来たのもその力のおかげよ。」
累の問いに微笑みながら答えてくれる。
けれど、それはおかしな事だと2人は気づいた。星詠みの力は1度しか使えないはずなのだ。そして、それはお金に変えられてしまうはずなのだ。それなのに、この人は力を使いここ
に居るのだ。
それは、どういう事なのだろうか?
疑問に満ちた顔で葵音と累が顔を合わせると、その様子をみていた祖母がクスクスと少女のように笑った。
「星詠みの力が1回だという事も知っているのね。黒葉が自分の事を全部話してるなんて、よほど信頼しているのね。」
「………事故に合う前に、手紙で残してくれたんです。」
「そう。………じゃあ、私の話の前に、黒葉との事を教えてくれないかしら?」
「わかりました。」
そのタイミングでコーヒーとサンドイッチが来たので、コーヒーを口に入れた。
酸味が少ない、飲みやすいコーヒーだった。
「おいしいですね。優しい感じがします。」
「そうなの。ここのコーヒー、とっても美味しいのよ。週に3回は来ちゃうの。」
嬉しそうに笑う顔は、本当に黒葉に似ており、葵音は少しだけ切なく、だけれど心が温まる気がした。
「………黒葉さんに会ったのは、初春の頃でした。」
それから、ゆっくりと丁寧に黒葉との話をした。葵音の話をコーヒーを飲みながら、黒葉の祖母は「そうなの。」「うんうん。」などと相槌をうち、表情をコロコロと変えながら聞いてくれた。
累も静かにサンドイッチを食べながら、その話を耳に入れてくれていた。
懐かしくも切ない話を黒葉の祖母にする。
始めは心が暖かくなるが、星詠みの話や事故直前の様子、そして事故の事になると、苦しくなってしまう。
けれど、彼女の家族には話さなければいけないのだ。
彼女がどうやって生活して、どんな気持ちで過ごしていたのか。そして、星詠みの力について、どう思っていて、事故から逃げなかったのかを。
「………そして、彼女の日記と免許証をみてここに来ました。そして、黒葉さんの事故の事、そして星詠みについて聞きたかったんです。」
「そう……そんな事があったのね。話してくれて、ありがとう。ここにいた頃とは違う黒葉を知った気がするわ。」
「違うとは………?」
「ここで暮らしている時の黒葉はね、仕事をして、帰ってきて家事をして。ただお金のために、家族の機嫌をとるために動いているだけだった。趣味もつくらないで、職場の図書館から借りてきた本を読んだり、星を見ているだけの毎日でね。………でも、ずっと待っていたの。星詠みでみた、あなたを。」
「…………。」
この土地で暮らしていた頃の黒葉の生活を知り、葵音は唖然としてしまった。
けれど、よく考えればその通りなのかもしれない。
お金を返して自由になり、そしてまだ見ぬ運命の人を助ける。けれだけが、黒葉にとって「やらなければいけない事。」だったのだろう。
恋もしていない、顔さえも見ていない、どんな人かもわからないのに。
星詠みの力を信じ続けていたのだ。