「おはよう、葵音。よく眠れたかい?」
 「………おまえ、わかってて言ってるだろ?」
 「………酷い顔だと思っただけだよ。持ってきたよ、ノートパソコンと、郵便受けに入っていた手紙たちもね。それと、もちろんあの箱も。」
 「……悪いな。助かったよ。」


 累から大きな紙バックを受け取り、中身を見つめた。彼の気遣いに感謝しながらも、ノートパソコンや郵便物には一切目もくれなかった。

 葵音は古びた箱を手に取り、座っていたベットに置いた。


 「それ、机の上に置いてあったよ。引きだしには何もなかった。それに………黒葉ちゃんの荷物がひとつの大きなバックに纏められてた。」
 「………あいつ………。」


 きっと黒葉はあの部屋に帰ってくるつもりはなかったのだろう。
 だから、部屋を片付けて荷物も纏めていたのだろうと葵音は彼女の考えを理解した。葵音がすぐに片付けやすいように。いなくなってしまってから、葵音に迷惑をかけたくない。そんなバカみたいな事を思っていたのだろうと知ると、葵音は悲しくなってしまった。


 旅行の朝、彼女がなかなか部屋から出てこなかったのは、そのためだと葵音は今さらながらに気づいた。

 今、知ったとしても遅いというのに…………。
 それに旅行の前の日に知っていたとしても、その理由を葵音がわかるはずもないのだから。

 

 箱にゆっくりと手を添えて開ける。
 すると、葵音が1度だけ見てしまった黒葉の日記と免許証が出てきた。
 累は椅子に座り、ただじっとその様子を見つめていた。きっと日記を覗き込むような事はしないで、終わるまで見守るつもりなのだろう。
 彼の気遣いに感謝しながら、日記に視線を落とした。


 葵音は、丁寧に日記を持ちページを捲っていく。
 前に見てしまったページより、彼女の言葉は続いて残っていた。