3話



 
 「はぁー……俺は何やってるんだ。」
 

 葵音は、目の前にいる女を見つめながらため息をついた。
 先ほど初めて話したばかりの女が、自分の家のベッドで寝ていた。 

 もちろん、葵音にはやましい理由などあるはずもなかった。

 葵音と話して女が急に倒れ、自分が支えているのに放って置くわけにもいかなかったし、彼女自身が救急車を嫌がっていたので、呼ぶのも躊躇ってしまった。
 近くのホテルに2人で行くのもいけないと思い、彼女を抱き上げてタクシーに乗った後は、そのまま葵音の自宅に向かった。


 少し寝たせいか、顔色もよく青白さもなくなっている。穏やかに眠る彼女は、先ほど倒れたとは思えないぐらいだった。


 「……よく眠ってるな。」

 
 葵音は、サイドテーブルにミネラルウォーターのペットボトルを置いてその場から離れた。
 彼女について、気になることは沢山ある。
 けれども、彼女から聞かなければわからないことがほとんどだった。

 そのため、葵音は諦めて仕事に戻る事にしたのだ。作業場の椅子に座れば、葵音の頭はすぐに切り替わる。


 「今日はリングだな……。」


 作りかけだったシルバーのリングを取り出して、葵音は頭の中でイメージを浮かべる。そして、丁寧に削ったり、模様を作っていくのだ。
 少しずつ完成していくアクセサリーと、それを受け取るお客の笑顔を見るのが葵音の楽しみだった。それだけを思い出すだけで、いくらでも頑張れるのだ。

 そして、作業中はいつまでも集中出来るので、自分はこの仕事が好きだし、合っているのだとわかった。


 今回は小さいダイアモンドとパールをあしらったリングを作っていた。年配の夫婦からの依頼で、昔のリングが合わなくなったから、同じ宝石を使って新しいものに変えてほしいと言われたのだ。その夫婦にとって、とても思い出深いものなのか、デザインの相談をするために話を聞いていると、とても懐かしそうにそのリングについて話していたのだ。
 葵音は、もちろんその依頼を受けることにした。