「本当にありがとう。教えてくれて。
野木さんには自分の勉強があったはずなのに」
「……うん」
なんて返すのが正解なんだろう。
わたし達以外に誰かいれば良かったのに、テストが近いから誰もいない。
さっさと帰るに限る。
「待って」
「うわっ!」
突然手を掴まれて動揺してしまう。
静かに離そうとするけれど、離してくれない。
……こいつ、見た目だけは本当にいい。
夜だと特にそれが際立って見える。
黒い髪の毛は黒猫のようだ。
「離してくれない?」
平常心を忘れないように言う。
「ちょっと無理かも」
「はあ?」
「分からない?」
「ちゃんと言ってくれないと分からない」
唐突に、戸部くんが近づいてきた。
なんの光も反射しない瞳は怖い。
怖くて目を瞑る。
それでもやっぱりわたしは反射的に体をのけてしまう。
「ま、いっか。取れたし」