「あの頃ランドセルが重たかったけど、今も考えてもランドセル自体が重たかったよね。」

「俺はチビだったからな~余計にきつかった気がする。」

「そうだね。ぶっちぎりの先頭だったもんね。」

「それ背の順の話だろ?!花澤さん、ひでえな!」

柚木の相変わらずの反応に花澤も笑ってしまう。

あの頃は確かに背が低くて、先頭になることが多くて、たまに先頭じゃない時は誇らしげに全力で喜んでいたのを思い出した。

でも今はもう違う。

そう続けようと柚木を見た時、花澤は思わず目を見開いて固まった。

「今はもう花澤さんと同じくらいあるし、背の順だって先頭じゃないんだからな。」

傘と傘がぶつかって限界まで柚木が顔を寄せてきている。

同じだ、さっきと。

真っ直ぐに見つめるその目があまりにも綺麗で、呼吸をするのも忘れるくらいに魅せられる。

「あ、花澤さん!」

名前を呼ばれたのと同時に腕を引かれて柚木の方に近づいた。

何が起こったのか理解する前に二人の横を車が横切っていく。

助けてくれたんだ、そう胸の内で呟いてまた心臓が鳴った。

「ごめん、俺が車道側だった。」

そう言って花澤を奥にやって並び直す。

「花澤さん?」

全く声を出さない花澤を不思議に思ったのか、柚木は覗き込むようにして窺った。

背中に触れたままの柚木の手が温もりを伝えてくる。

「手…。」

「手?あ、ごめん。触ってしまった。まあ緊急事態だから?」

深く捉えずに許して欲しいと柚木は笑う。

慌てて怒っていないと花澤は首を横に振って柚木に伝えた。

「違う!あの、手が大きいのかなって!」

「手?」

自分の手を裏表にしながら眺めると柚木は花澤の傘の中まで手を突き出してくる。

不思議に思いながらも見つめていると柚木が笑顔で合わせるように促した。

「…大きい。」

「やった!俺の勝ち。」

手も昔とは違ってごつごつしていて、あの頃の柚木がどんどん薄れていく。

そして目の前の柚木がどんどん花澤の中で広がっていくのが分かった。