無事に鍵も返して置き傘も取ってきた。

止みそうにない雨は心なしかさっきよりも強くなった気がする。

「頭を冷やせって事かな…。」

人気の無い校舎に溶けていく自分の声が切ない。

暗闇の雨、誰もいない廊下なんて誰が楽しめるものか。

自分が恐怖を感じる前に退散しようと花澤は足早に下足場に向かった。

…からんっ

「ひゃっ!!」

慌てて音がした方を振り向いて見ても何もない。

たまにある、どこからか聞こえてくる正体不明の軋み音というか金属音というか。

暗い場所で一人だとただただ怖くなるだけで花澤は半泣きになりながらとにかく急いだ。

早く帰ろう、ゆっくりしたって良い事なんか何もない。

肩にかけたカバンの持ち手をしっかり握りしめながら懸命に歩いてようやく下駄箱についた。

「はあ…。」

明るいだけでこんなに安心するなんてどれだけビビリなんだ。

自分を情けなく思いながら靴を履き替える。

「おかえりー。」

また大雨に向き合う為に外に出ると、優しい声に迎えられて花澤は目を丸くした。

「柚木くん!?」

「鍵返せた?あ、傘持ってるね。じゃあ帰ろっか。」

そう言ってまた傘を開く柚木に花澤は戸惑いを隠せない。

「帰ったんじゃなかったの?」

「ううん、ここに居たよ?これ止みそうにないから早く帰ろう。」

当然のように誘う柚木につられて思わず花澤も歩き出した。

一歩軒下から出た途端に勢いよく雨が傘を叩く音がする。

「さっきより強くなってるかも。」

「だね。」

若干引きながらも仕方なく二人は雨の中を歩き出した。

「なんかこうやって帰るの小学校以来じゃない?登下校班とか懐かしいなー。」

さっきとは違って二人の間に距離を保てている分やりやすい。

それに今までと変わらない柚木の様子に花澤は少し安心して息を吐いた。

変な会話を聞いた後だからだ。

さっき感じた今までと違う柚木の雰囲気は花澤自身が不安定な気持ちだったからだと納得した。