とは言っても同じ境遇の子はこの高校に柚木以外にも10人はいる。

全員と特別仲がいいという訳ではないが、それでも幼い頃からずっと同じ空間で過ごしてきたから親近感はもっていた。

会話は多くないけどよく知ってるってなんだか変な感じだ。

「ユズ、誰かいんの?」

「うん。花澤さん、傘持ってないみたいだから送ってくるわ。」

「お前ら付き合ってんの?!」

「へ?いや、家近所だから。」

「だよな~…花澤さんて、ちょっとなあ。」

どしゃぶりの雨の音は古い部室棟ではよく響く。

確かに声は聞こえにくくなるほど雨の音は大きいけど、全く聞こえなくなる訳じゃなかった。

ましてや自分の話題。

いくら声を潜めても嫌でも聞こえてしまうものだ。

これから耳を汚しそうな言葉を予感して花澤は目を曇らせて細めた。

(…またか。)

「気取ってるっていうかさ、愛想ないし近寄り辛いんだよな。」

「ああ、分かる。美人だからかね~お前らなんか相手にしないオーラ出てんだよな。」

「それって5組の氷の女王?」

一体何人いるんだか勝手に人の事で盛り上がってくれている。

いつもそう、美人だが愛想がないと褒めているんだかけなしているのか分からない事を言いふらされていた。

この耳に付くような大雨でも消せない潜め声にどれだけ傷付いてきただろう。

今となっては悲しみを越えてただ不快なだけだった。

(柚木くんには悪いけど…もう行こう。)

別によく知らない人間にどう思われようと知ったことじゃない。

花澤は鍵を握りしめて口元に力を入れた。

「あれ、皆って花澤さんと話したことあんの?」

踏み出そうとした足を柚木の声が止める。

「え…無いけど。」

「まあ…ちょっとくらいしか?」

「じゃあ愛想なくて当然じゃん。殆ど知らない相手なんだから。そんなもんでしょ。」

何言ってるんだと明るく笑い飛ばして柚木は部室から出てきた。

「お待たせー。」

傘を解きながら笑顔で近付いてくる。