(あ、どうしよう…)

どしゃぶりの景色を眺めて花澤えみは途方に暮れた。

確かにさっきまでは曇天だったし、もうすぐ降り出しそうだとは思っていたけどまさかここまで遠慮なしに降るなんて。

「置き傘…教室か。」

部室の鍵を握りしめて独り言ちた。

どちらにせよ部室の鍵を職員室がある棟まで返しに行かなければいけない。

「なんで部室棟って離れてるかな。」

こんな事なら皆と一緒にさっさと帰ればよかった。

でも痛めてしまったかもしれない足を知られたくない、そんな思いで一人残ってテーピングをしていたんだ。

(しっかり固定したし少しくらい走っても平気か。)

ハイソックスで隠した右足首を見下ろした。

カバンを傘代わりにすればこれで行ける、そう意気込んで踏み出そうとした時だった。

「あー!めっちゃ降ってる!!」

「わっ!」

勢いよくドアを開ける音と共に声が聞こえて思わず声が出る。

お互いに声がした方を見て顔を合わせた。

「あれ、花澤さんじゃん。」

「柚木くん…ビックリした。」

「あ、ごめんねー。」

大丈夫、そんな意味を込めて花澤は片手を挙げて軽く振る。

顔だけ出した柚木は動悸を落ち着かせようと胸に手を当てる花澤をまじまじと見つめた。

視線を感じて振り向けば柚木と目が合って花澤はまた固まる。

「な…なに…?」

「もしかして傘ない?」

「あ、うん…走ってこうかと。」

「そっか。ちょっと待ってて!」

そう言い放って柚木は部室の中に入ってしまった。

もう行こうとしていた花澤は断ろうと手を伸ばすが流石に男子部室に踏み込めない。

「…ちょっと…。」

行き場のない手が力なく下りてため息になる。

同じクラスの柚木一也、彼は幼稚園の頃からずっと同じ学校に通う幼馴染の1人だ。