ふぅ...と、息を吸い、 はぁっと、息を吐く。
鏡の前で見慣れない姿にちょっとドキドキする。
いつもはやらない化粧にワクワクする。

私は、楠木 柚葉。今日から高校1年生デビューです!
「ちょっと柚葉〜、遅刻するわよ!?」
あーもう!うるさいお母さんだなぁ...。
「分かってるって!今行くから!」
気持ちいい朝が台無し!ほんと何してくれてんのよっ!
私、楠木家は、お父さんと、お母さんと、私と私の上に姉、下に弟の5人家族。姉は、今高校3年生、弟は今年小学6年生。その間の私、高校1年生。
そんなうるさい家庭に産まれました。

「咲紀ちゃん待ってるんじゃないの!?」
「分かったってうるさいなあ!」

...登校初日、早くも遅刻しそうです。

履きなれない靴を履くのにも時間がかかる。

ローファーだからすぐ履けるけど、その後が問題。
走りにくい😅
家の玄関を開けると、咲紀こと、船橋 咲紀がスマホを片手に待っていた。
「ごめん、咲紀!」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫!」
「え?どゆことよ笑」
「とりあえず、遅刻するから!走らなきゃ!!!」
...大丈夫かなぁ...。
「うん!着いてきてよね!?」
「どっちが待ったと...?柚葉早いからついていけないよ〜!!!」
...私は、元陸上部と、テニス部の兼部で、その中でも1番体力には自信があったため、クラスでも選ばれるほどだった。
「大丈夫!引っ張ってくから!とりま行こ!!!」
「あぁ、ちょっと〜!」

そうして、ようやく校門まで辿り着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、もう、はぁ、もう帰っていいかな?」
と、めちゃくちゃ息が荒い咲紀。
そりゃ、元生活部には辛い話だよね。
「間に合ったでしょ...?」
「いや、ギリ遅刻かも...よ?」

「こーら!君たち、1年生だね?名前はなんだ?」
と、名札に【井上 和人】と書かれた髭ジジイ。
「楠木、楠木 柚葉。あたしのせいだから、咲紀は、責めんなよ」
「いえ、私も充分悪いので!すみません、先生」

あたしたちは、中学時代はかなりの遅刻魔。
起きても起きても、どうも早く起きられなくって。結局おきると8時過ぎ。

「おまえら何してんの?」
...今度は誰よ、校長先生?
「なに」
と、後ろを振り返ると、なんか冴えない感じのメガネくん。
「頭良さそうなのに、こんな所居てもいいの?」
と、咲紀が言う。
「メガネ=頭良さそうっていう概念辞めてくんね?嫌いなんだよね〜、俺。まぁ、頭いいのは事実だけどな。」
...なーに言ってんだか...。
「馬鹿じゃないの?自分で言うなって。」
「事実を述べて何が悪い?君たちだって、遅刻じゃないか。」
はぁ、めんどくせー。
「そういうメガネもね。」
「メガネじゃねーよ、新城、新城 葵威だよ、俺。」

何も聞かずに、その場を通り過ぎる。

なんであたしがこんな感じかって、理由はちゃんとある。
あたしは、愛されてない。三人兄弟の真ん中で、いつも、お父さんもお母さんも姉や弟の面倒ばっかり。それに加え、姉がモデルをやっていて、いっつも比較される。
スポーツは、ゆういつ得意とする分野だけど、そんなのどうでもいいって言われる。
やっぱり顔なんだよなぁ。

クラスに入ると、先生に睨まれた。
「楠木さんよね?なんでこんなに遅刻してるの!?もう高校生なのよ?ちゃんと身をわきまえなさい」
...ほーら、また口ばっかり。

そんなの、信じられるわけないじゃん。

昼休み。同じ学校に通う、姉に呼ばれた。
「ねえ、ゆず、?ゆずもモデル試験受けてみたら?、」
「言っとくけど、お姉ちゃんみたいにあたしは可愛くなんてない。もし、それほんとに言ってるんだったら、あたしはスポーツで伸ばしたい。」
「そっか、なら、私はゆずのことを応援してるからね。だからちゃんと学校には遅刻しないでいくことね?」
...知るかそんなもん、

早足で陸上部の見学に行こうとすると、誰かとぶつかった。
「いったー...て、お前朝の...」
聞き覚えのある声に目を見開く。
「...名前なんだっけ?」
「はぁ、聞いとけって、新城 葵威。お前は、楠木 柚葉だろ?」
...きもっ。なんで名乗ってもないのに、知ってるの...
「その顔はキモって感じの顔だな?ねぇさんの、ファンなんだよ…。姉貴が」
...へぇ、どーでもいいことブツブツと...。
「あたしは関係なくね?別に、姉妹ってだけだし。なんで姉なんかと比べられなきゃいけないの?」
「分かるよ、その気持ち、俺もさ末っ子だから、結構比べられちゃうんだよな。だから、分かる。」
そんなの聞いてないし...。
「そーいやなんだけど、陸上部入る予定なの?」
「まーな。中学陸上部だったからな」
へぇ。にしては早そうに見えないんだけど。
「にしてはひょろひょろだけど。そんなんじゃあたしに勝てないよ?」
あたしも中学の時陸上部で、地方の大会まで行ったくらい。彼はそれ以下に見えるけどね。
「まあ、男子と女子だと違うからね。そりゃそーなるよね。」
「ひょろひょろがいるならあたし入らなくていいかなぁ。」
「それ地味に悪口だからね?」
そんな会話を続けているうちに、陸上部の先輩らしき人に呼ばれた。

「おー!君たち新1年生だよね!?あたし、陸上部部長の古川 怜奈ってゆーの!よろしくね!」
と、なかなか元気そうな先輩に手を握られる。古川先輩は、ショートヘアでおめめくりくりの男子にモテそうなタイプのかっこいい先輩だ。
「はい!そうです!私、楠木 柚葉です!」
「そっちの坊主は?」
「新城 葵威っす。禿げてないですけど」
「へぇ!君ら付き合ってん?」
「「なわけ」」
…この先輩絶対恋愛系の話好きだなあ?
いちいちだるいんだよね、まあ二人でいたらカレカノ的なふうに見られても仕方ないか…
「ごめんごめん、冗談だよ?」