家を出て鍵を閉めた。
二人並んで歩く。
お互い話すことなく、ただ黙って歩いていた。
何か話そうか。
ずっと黙っているのもなんだか居心地が悪い。
何を話そう。話題、話題。
「あのさ」
私が必死になって考えていると、
尚央のほうが口を開いた。
「な、なに?」
「波留に、プレゼント。
俺の使い古しで悪いんだけど、
音楽プレイヤーをやるよ」
そう言った尚央はポケットから
薄い長方形の機械を取り出した。
赤い色のそれは使い古しと言う割には綺麗だった。
「それに俺の好きな曲が入ってる。
全部いい曲ばっかりだから聴いてみて」
尚央にプレイヤーを手渡されて、
それをじっと見つめた。
イヤホンも一緒に渡されて、
試しに一つ聴いてみようと、曲を適当に流してみた。
イヤホンからは心地のいいメロディーが流れてきて、
意外と好きな曲調だった。
「どうして私に?」
「俺の好きな曲を聞いてきたからさ、
興味あんのかなって思って。
って、もっとちゃんとしたやつ買ってやるから―」
「これがいい」
私はそのプレイヤーをきゅっと抱きしめて尚央に笑いかけた。
「このプレイヤーがいいの。ありがとう」
「……おう。それならいいんだ」
二人で笑って、どちらからともなく
手を繋いで歩き出した。
さっきの気まずさはもう無くなっていて、
代わりに幸せな気持ちでいっぱいになっていた。