「だからさ、何度だってやり直そう。
 俺達にはそれが出来るんだよ。
 同じ病気だからこそ支え合って生きていける。
 そうだろう?」


私はこくりと頷いた。
尚央はにっこりと笑って私の額にキスをした。


「帰ろう。また明日、いつもの喫茶店で会おう。約束」


「約束?」


「ああ」


尚央が私に向けて小指を差し出した。


私もそっと、その小指に自分の指をからめる。


きゅっと結んで、二人で笑う。
もう私に怖いものは何もないんだと分かったら、
気分は晴れやかだった。


二人並んで歩く。
しりとりをしながら歩いていて、
私は詰まってしまい話をそらした。


「そういえば、なんでスーツなの?
 眼鏡もかけてるし」


「ああ、眼鏡はな、コンタクトが切れてたから眼鏡なだけ。
 スーツは……」


尚央はそこまで言うと立ち止まった。


いつの間にか施設の前まで来ていて、
庭には施設長がいた。


私たちを見てぺこりと尚央に頭を下げた。


「榎本さん、言えたんですか」


「ええ。なんとか」


「言えたって、施設長は知ってたの?」


施設長はにっこりと頷いて、私の肩に手を置いた。


「言っただろう。真実はきっとあるって」


私が頷くと、施設長は尚央に向き直った。


尚央は私から手を離して、ゆっくりと頭を下げた。







「今日はあなたに、お願いをしに来ました。
 僕は前向性健忘という病気ですが、
 波留さんを好きな気持ちは本物です。


 波留さんが二十歳になるまで待ちます。
 だから僕と、結婚させてください」






驚きの一言に、私は口元に手を当てた。


施設長は驚きもせずにゆっくりと笑うと、
尚央の肩に手を置いた。


眼鏡をかけ直して、そして施設長は言った。


「あなたみたいな人に出会えて、
 波留ちゃんは本当に幸せ者です。
 親代わりにはまだなり切れていませんが、
 どうかその時が来たら、波留ちゃんをよろしくお願いします」