「波留だけは、分かるんだ。
 頭で忘れてしまっていても、ここが、お前を覚えてる」


尚央はそう言って私の手を尚央の胸に当てた。


ドクン、ドクンと小さく鼓動が聞こえてくる。


ここが、心が私を、覚えている。


「どんなに繰り返したって、
 どんなに忘れたって、波留を何度も好きになった。
 一日もかかさず、波留のことが好きだった。
 五か月前最初に会った日から、ずっとお前を好きだったんだ」


「そんな、嘘……」


「信じてくれ。俺の気持ちは全部、
 この日記の中にしまってある」


パソコンを操作して、尚央は私に日記を読むように促した。


日記は七月二十五日から始まっていた。











―七月二十五日 水曜日
 今朝も記憶の整理を済ませた。このことを知っているのは親父だけ。
 他のやつにはばれずになんとか生活しているみたいだ。
 今日もあの喫茶店「ヴァポーレ」に行こう
 として、駐車場に車を停めて向かっていると、
 店に一人の女の子が入っていった。
 高校生くらいか?ショートカットでちょっとボーイッシュな服装の子。
 その子が店に入っていったから俺も入ってみると、
 その子は窓際の一番奥の席に座っていた。
 その子はショコラミントを頼んだ。美味しいのか?
 その子を真正面から見た瞬間、
 心臓をわし掴みにされたみたいな衝撃を受けた。
 かわいくて、俺の好きなタイプ。


 その子は笑うことはなく、
 ショコラミントを飲んでじっと窓の外を見つめていた。
 そんな女の子を見ていた俺は、
 知らず知らずのうちにその子に話しかけていた。
 何をやってるんだ俺は。


 その子は訝しげに俺を睨み上げていて
 しまったと思ったけれど、話しかけたもんはしょうがない。
 べらべらと自己紹介すると、次第に女の子は打ち解けていったのか
 初めて笑ってくれたんだ。
 その笑顔を見た瞬間、ああ、この子のことが好きだと思った。