私のことも書かれていた。


私の特徴が事細かに書かれていて、
何時に喫茶店に来るとか何を頼むかとか、
そういうことも書かれていた。


これは間違いなく、「そういう人」の日記だった。


「どうして……だって尚央は普通で……」


「この病気になってもう二年。
 生活に支障がないくらいには慣れてきたんだ。
 だから周りには気づかれないくらいになった。
 この病気はそういうふうに出来るんだよ」


「じゃあ、嘘をつくって言うのは……」


「その日の気分なんだろうな。
 嫌なこととか都合の悪いことは書かなかったりしたんだろう。
 そういうところから歪みが生まれて、
 周りの言ってることと食い違ったりもする。
 だから亜里沙の言ってることも、俺には分からなかった。
 俺の記憶では、亜里沙と付き合ってたことは
 すべてなかったことになっていたんだ」


じゃあ、尚央にとって私が初めてだって言ったのは
本当にそう思ったからで、
亜里沙と付き合っていたことは忘れていたってこと?


「何人もの女と遊んでるっていうのも、
 きっと俺が自暴自棄になってた頃の話だ。
 どうでもよくなって、間違ったことをした。
 それは悪いと思ってる。ごめんな」


「でも、どうして私のことはすぐに分かったの?
 今だって、喫茶店じゃなかったのに、
 どうして私だって分かったの?」


私が問うと、尚央は小さく微笑んで私の手をそっと包んだ。


ひんやりして気持ちいい。


私はその手を、まだ握り返すことは出来なかった。