尚央は叫んだ。
ぐっと、掴まれた手に力が込められる。
冷たい手が、熱を帯びていくようだった。
「俺も、同じなんだ」
「同じって、何が?」
「前向性健忘……」
「えっ?」
「俺も、前向性健忘なんだ」
消え入りそうな声で、尚央は言った。
私はその言葉をすぐに理解出来なくて、
頭の中で反芻させた。
尚央が、前向性健忘?
「波留と同じ、前向性健忘なんだよ。波留」
「そんな、だって、そんなの嘘!」
「嘘じゃない。本当なんだ」
尚央はカバンからパソコンを取り出して
私にある画面を見せた。
私は恐る恐るその画面を見る。
それは、日記だった。
「これ……日記?」
「そうだ。俺もお前と同じで、
日記をつけて記録を取っていた。
信じてくれ」
日記を書いていることはそんなに特別なことじゃない。
普通に日記を書く人もいるにはいる。
でもこの日記は違った。
事細かに、そんなことまで記録する?ってくらいの内容が書かれていた。
今日通った道順とか、何を食べたかとか、
お金はいくら使って、財布の中にはいくら残っているとか、全部。