振り返ると、さっきの眼鏡の男の人がいて
私を悲しそうに見つめていた。
「誰ですか。離してください」
「波留」
「えっ」
「波留。俺だ、尚央だ」
尚央?眼鏡をかけていたなんて
記録にあったっけ?
服装もダサいものではなくちゃんとしたスーツだし、
とても想像していた尚央ではない。
でも、この男の人は尚央と言った。
尚央は私の手を掴んで離さなかった。
「ちょうどよかった。波留を探していたんだよ。
どうしても話がしたくて」
「……嫌だ」
さっきまでは会いたくてたまらなかったのに、
亜里沙の言葉で会いたくなくなってしまった。
噂が本当なら、そんな人と一緒にいたくない。
「波留。お願いだ。ちょっとでいい。弁解させてくれ」
「何人もの女の人と遊んでるんでしょ?
一緒にいて楽しく過ごしてるんでしょ?
それなのに私には初めてだからとか言ったの?」
「何?」
「とぼけないでよ。亜里沙って人に聞いたんだから!
尚央は平気で嘘をつけるし、人に興味がないし、
女たらしなんだって!」
「波留、それはな」
「どうして嘘なんかつくの!
私が何も覚えられないから、からかっているの?
その気にさせて、飽きたら捨てるんでしょう!」
「違う!」
「じゃあ何がどう違うのよ!」
「俺も!」