「あなたも気を付けたほうがいいわよ。
尚央は嘘をつくのが得意だし、
まずいことがあるとすぐに知らんふりをする。
傷つかないうちに別れることね」
「嘘をつく……?」
「どうせ私のことも伏せて
あなたが初めてだとかなんとか言ったんでしょ?
そういう嘘を平気でつけるのよ、彼」
「そんな……」
「大学でも女たらしで有名よ。
いろんな女の子と寝てるって噂だしね。
さすがは次期社長ね、やりたい放題」
はぁっと煙を吐き出す亜里沙。
その煙が煙くて顔をしかめる。
頭の中の波がすぅっと引いていくような感じだった。
尚央は、嘘つきなの?
何かの間違いだって、許そうと思って走って来た私は何だったの?
何人もの女の人と寝ているっていう噂は本当なの?
私は何を信じればいいの?
「ま、あなたも飽きて捨てられないうちに
自分から身を引くことね。
あなたはまだ未成年なんだから。じゃあね」
最後に私の顔に大きく煙を吐き出した亜里沙は、
車に乗り込んで走り去っていってしまった。
私はしばらく、その場に立ち尽くしていたけれど、
そのうちとぼとぼと歩き出した。
途中、スーツを着た眼鏡の男の人とすれ違う。
私、そんなにひどい顔をしているのか、
男の人は私をじろじろと見ていた。
そんなことも気にならずに、私は歩いた。
走ったせいで息が整わない。
もう疲れて一歩も動きたくないと、
そう思った時だった。
誰かに腕を掴まれた。
「えっ?」