乱暴に扉を開け放って、
私は外に飛び出した。


いない。
もしかしたら私が酷い態度を取ったみたいだから、
もう来なくなってしまったのかもしれない。


どこに行ったら会える?
ぐるぐると考えていると、
ポケットに入れた鍵を思い出した。


そうだ、家にいるかもしれない。
迷うな、行ってみよう。



走って、走って、息が切れても走って。


施設方面へ急いだ。


向かうは私の元の家。


尚央が私と尚央の家だと言ったはずの、
あの家へ向かう。


いてくれればいいと思った。


会って叩いてしまったことをごめんねって言って、
許してあげるよって言って、仲直りをするんだ。


そうしてまた楽しく過ごしたい。




それだけを考えて走っていた。





「あら、あなた」


声をかけられて、私は立ち止まった。


誰?女の人が私を見て楽しそうに手を振る。
真理愛さんじゃない。
この人は誰……。


「私よ、私。覚えてない?
 一昨日会ったじゃない。
 尚央と一緒にいた子よね?確か、波留ちゃん」


ドクンと胸が鳴った。


この人はもしかして亜里沙という人ではないだろうか。


ケタケタと笑う彼女は私に近づいてきて、
それから顔を覗き込んだ。


「今尚央に会ってきたところなの。
 いやね、懐かしい昔話をしにね。
 あなたは今から尚央に会いに行くのかしら?」


「は、はい……」


「教えてあげましょうか。
 尚央ってね、人のこと全く覚えないのよ。
 誕生日とか、記念日とか。人に興味がないのよ。
 私のことも誰?とか言うし、
 そうやってふざけるのが好きなの」


亜里沙は得意げにそう話しだした。


煙草を取り出してふぅっと火をつける。
煙を私に向かって吐き出した。