日記を改めて読み返して、
思ったことがある。
榎本尚央という男の存在。
この人はいい人なのかという是非について
問いたいところだけれど、
誰に聞いたらいいのかも分からずに
呆然とすること一時間。
ふと、あるものが目についた。
「これ、何だろう」
小さな鍵を見つけて、私は首を傾げた。
もしかしたらこの日記に書いてあった、
あの鍵かもしれない。
そう思って太陽の光に照らしてみた。
何の変哲もないただの鍵。
だけどそれを見ているとなんだか安心して、
どこか愛おしくも感じた。
次に私は、音楽プレイヤーを見つけた。
新しめに見えるプレイヤーの電源をつけると、
画面にはプレイリストが表示された。
「NAO」と書かれたプレイリストを見てみる。
すると横文字の題名がずらっと並んでいた。
日記に書いてあった曲名も記されている。
これは尚央に貰ったというプレイヤーなのか。
イヤホンをつけて適当にある曲名をクリックする。
すると軽やかな曲調の音楽が流れてきた。
あ、いい曲かも。
そう思って目を閉じた。
男の人が歌っているもので、英語の歌詞だった。
君を愛しているのに、
どうしてすれ違ってしまうのだろう。
この心もこの体も、
すべて君のものなのに、
どうして君の心は僕のものにならないのだろう……
この歌が、聞いたことのない声で再生される。
ハスキーな声。どこか優しい声。
それを聴いていると、自然と涙が溢れた。
尚央の、声が聞こえる。
間違いない。
これは尚央の声だ。
絶対そう。
私はこの声を知っている。