「榎本さんに全て聞いたよ。
 ショックだったろう、波留ちゃん」


「別に。私は、どうせ覚えていないもの」


「日記に悪く書くほど、ショックだったんだろう。
 その気持ちは分かる」


施設長は私の頭を撫でた。
ゴツゴツした手は、どこか懐かしさを感じた。


「でもね、彼と話をしてみないかい?
 波留ちゃんが知らないだけで、
 本当の真実は別のところにあるかもしれないよ」


「真実?でも、この日記に書かれている彼こそが
 真実でしょう」


「視点を変えてみるといい。
 波留ちゃんになら、彼の気持ちがきっと分かるはずだから」


彼の気持ちが分かる?私が?
でも、私には分からないよ。


どうしてあんなことをしたのか、
どうして私にあんなことを言ったのか。


全然分からない。


それに、分かりたくもないよ。
本当の真実って一体何なの?


「施設長は、本当の真実を知っているの?」


「ああ。知っているさ。私から全てを話せたら、
 きっと波留ちゃんはすぐにでも彼を許してくれるだろう」


「それは何?教えてよ」


「でもね、私から教えることは出来ない。
 これは彼自身が、きっと波留ちゃんに
 打ち明けるだろうから。


 だから待っていてほしい。
 辛抱強く、待っていてあげてほしいんだ」