「いや、酷いでしょう」
ポツリと呟いて、ベッドへと身を投げた。
私には私が初めてだとか言ってその気にさせて、
本当は彼女がいたことあったなんて、許せないし、
そんなことをされたかと思うと腹が立つ。
あんな人、会わない方がいいんだ。
そうだよ。あんなに必死になって私に会いに来たからって、
許すことないんだから。
きっとあの人にとってこれは些細な出来事で、
謝れば済むと思っているんだ。
そんな人を許してやることはない。
私にはあの人がいてもいなくてもいいんだよ。
どうせ忘れちゃうんだから、
いなくても支障がないじゃない。
……本当に?
「尚央……」
名前を呼ぶと、ドクンと胸が鳴る。
ノートを開いて日記を読んだ。
一昨日までの私の日記は、
こんなにも楽しそうで幸せそうで。
それなのにどうして昨日の私は
こんなにも悪意に満ちた書き方をしたんだろう。
そんなにショックだったのかな。
どうして?
私にとってこの人は、どういう存在だったんだろう。
「波留ちゃん、ちょっといいかい?」
「どうぞ」
ノックをして部屋に入って来たのは施設長だった。
施設長はにっこり笑って私の隣に腰かけると、
眼鏡をかけ直した。