雅文が自嘲気味に笑う。


でも、そんなことない。


辛かったら辛いって言っていいし、
泣きたかったら泣いてもいい。


そういうのを引きずりながら生きていくのが人間だもの。


「ねえ、雅文。いいんだよ、
 辛い時は辛いって言っても。
 怒りたかったら怒っていいし、
 泣きたかったら泣いてもいい。その分私が……」










私が笑わせてあげるから。










そう言おうとして口を噤んだ。


口元に手を当ててはっと息をのむ。


これは、尚央が言ってくれた言葉だ。



泣いてもいい。
その分俺が笑わせてあげるからって。


無意識のうちにその言葉を拝借しようとしたなんて。


「なんだか知んないけど、サンキューな。
 まぁ、お前も何かあるなら言えよな。
 話くらい聞いてやるから」


「うん。ありがとう」


私が頷くと、ちょうど施設の中から施設長が顔を出した。


私を見て驚いたような顔をしている。


眼鏡をくいっと上げると、
施設長は私たちに近づいてきた。


「波留ちゃん。早かったね。こちらの方は」


「ああ、須藤雅文と言います。
 昨日お会いしましたね。ヴァポーレの店員です」


「あっ、これはどうも。
 ここの施設の施設長をしています。
 田中といいます」