施設に着いて、雅文は
ぽかんと口を開けて施設を見上げた。


「ここ……」


「ああ、私施設で暮らしてるの。
 お父さんとお母さんがいなくて」


「そうだったのか」


「何?意外だった?」


「まあ、なんていうか、その……
 俺より苦労してるんだなと思って」


雅文が頭をかいてそう言う。


俺よりってことは雅文も何か抱えている事情があるの?


「何かあるの?雅文も」


「親が離婚してさ。親父についていったんだけど、
 親父が酷い奴で。俺らのことを置いてどっかに消えた。
 そっからは真理愛と二人。
 母方のじいちゃんが残した店を改装して
 あの店が出来上がった」


そうだったのか。
それじゃあ、雅文も真理愛さんも、
私と同じで親がいないも同然なんだ。


私は施設に入ったから施設長に育てられているけれど、
二人きりで生きていくって、どんなに辛いんだろう。


よくメゲずに生きているなと思った。


「だから、俺は世界一不幸だと思ってた。
 でも違うな。俺より不幸で辛い思いをしているやつなんか、
 この世にゴマンといるんだ。
 ガキみてぇにいつまでも女々しく引きずるなって話だよな」