けれどもセシリアはまだ上の空なので、「ええ、それにするわ」と承諾してしまう。

さすがに様子がおかしいと気づいた様子のツルリーが、急に真面目な顔をして、セシリアの悩みを言い当てた。


「クロード騎士団長に嫌われることを気にされてましたよね。悪いことをするのはおやめになるんですか? サルセル王太子と結婚させられちゃいますよ?」


すると、黙々とセシリアの髪を結い終え、仕上げにピンクのバラの生花を挿しているカメリーが、口を挟む。


「いいじゃない。その方がセシリア様は幸せになれるもの」


この双子の侍女は、今日も意見が合わないようである。

カメリーの反論を皮切りに、ふたりは唾の飛ぶ距離で向かい合い、言い争いを始めてしまう。


「好きな人と離れ離れで、どうでもいい男と結婚させられるのよ? どこが幸せなのよ!」

「恋など妄想にすぎないから大丈夫。今はどうでもいい男でも、一緒に暮らせば親愛の情が湧き、いずれオシドリ夫婦となれるはず」

「オシドリじゃなくて、鴨よ! ドアの横に飾った肖像画をちゃんと見て!」

「肖像画の王太子は確かに鴨に似てるけど、オシドリはものの例え。鳥の種類を間違えたわけじゃないわ」