そんなセシリアの本心には、両親も使者も気づかない様子で、肖像画から目を逸らすという、ささやかなる彼女の抵抗も、無駄に終わってしまいそうだ。

使者が朗らかに笑いながら、彼女を褒める。


「恥じらっておいでですかな? なんと初々しく、奥ゆかしいご令嬢であらせられることか。頬を染めておられる王女殿下のご様子、しかとサルセル王太子にお伝えいたしましょう」


(頬は熱くないし、はにかんでもいないわよ……)


反論は心の中だけで、軽く頷いたセシリアが顔を曇らせてうつむけば、今度は国王が勘違いのフォローをする。


「娘は奥手で、これまで恋をしたこともないのです。きっと戸惑っているのだろう。いつもはもっと上手に話せるのだが、今、愛想がないのはお許し願いたい」


(お父様、違うわ。私は恋をしています。もう何年も、子供の頃から、あの方だけをお慕いしているのよ……)


着ているレモンイエローのデイドレスの胸元をぎゅっと握りしめ、セシリアは苦しさに耐えている。

けれども言葉にしなければ、親子であっても気持ちは伝わらないものであるようだ。

国王は執事に命じて、セシリアの肖像画を持ってこさせると、サルセル王太子へのお返しの品として、使者に渡してしまった。