視界から母の姿が消えてしまうと、セシリアは握り拳を開いて顎に指を添え、また悩み始める。


(でも……誰に、どうやって迷惑をかければいいのかしら?)


子供の頃のようないたずらでは、きっと周囲を楽しませるだけで終わってしまうことだろう。

それでは駄目だということはわかるけれど、すぐに悪事を思いつけない。

素直で純真。これまで皆に愛され、悪意を向けたことも、向けられたこともない彼女なので、誰かに迷惑をかける自分の姿をうまく想像できなかった。


(悪いことをするのは、人助けよりも難しそうね……)


「うーん」と唸りながら、彼女は廊下をゆっくりと歩き出す。

可愛らしい顔をしかめ、生まれて初めての悪巧みに、真剣に頭を悩ませるのであった。