セシリアとは六馬身ほども距離が離れているので、会話の内容までは聞き取れないが、母の声色は厳しいものであるようだ。

そんな母の姿にセシリアは、羨望の眼差しを向けていた。


(私なら、あんな風に叱ることはできないわ。たとえメイドのミスで危険な目に遭ったとしても。駄目なことを駄目だと、ハッキリ言えるお母様は、強いわね……)


セシリアの母、オリビアは、バラのように美しい容姿をしているが、心には折れない棘を持っている。

娘時代には、当時、王太子であったレオナルド国王の花嫁の座をめぐり、ライバル令嬢と熾烈な争いを繰り広げたのだとか。

ライバル令嬢をしたたかに追いやって、勝利したのはオリビア。

そのため、今でも舞踏会などの宴の場では、『王妃は人を罠にはめるのが上手だ』と、ヒソヒソと陰口を叩く者がいる。


けれども国王は、全てを承知の上で、王妃を心の底から愛しているようだ。

『オリビアは清らかで純粋な黒い心を持っている』と、笑って母を評価する父を、セシリアは子供の頃から見てきた。

そのため彼女は、母の強気な性格を肯定的に捉え、憧れてきた。