「ええと……そろそろ帰らない?」とセシリアが声をかけると、やっとイザベルが離れてくれた。

彼女は、本当に仲がよかった子供の頃のように、純粋な笑みを浮かべて言う。


「セシリア、今日のお礼は必ずさせてもらうわ」

「お礼なんて、そんなーー」

「あなたを喜ばせたいのよ。楽しみに待っていてね。それじゃあ、お先に失礼するわ」


髪留めやリボンをプレゼントしてくれるのだろうかと、セシリアは予想していた。


(もらったら嬉しいとは思うけれど、へこんでいる今は、喜べないわ……)


ドアを開け、ロイヤルボックスから出ていくイザベルに、侍女たちは会釈しながら、小さなため息をついている。

失敗に肩を落としているセシリアは、ぎこちない笑顔を湛えて手を振り、親友の背中を見送っていた。