つい先ほど、劇団長がここにやってきて、トワルと共にお礼を述べていた。


『劇団長として、台本を変えるなどと神への冒涜のように感じておりましたが、やってみると面白いですな。同じ演目に飽き気味であった観客が、随分と喜んでおりました。お客様があっての歌劇だとお教えくださいまして、王女殿下には感謝しております』

『僕はイザベル嬢の歌声に驚きました。声楽の勉強をされたことがないと言われても、信じられません。これが天性の才能なのでしょうか。歌劇団にスカウトしたいほどに、お上手でした』


ふたりはセシリアに深々と頭を下げて感謝し、イザベルを笑顔で褒め称えてから、数分前にここを出ていったところである。

今、困り顔をしているのは、イザベルではなくセシリアの方であった。

それは、幕が下りてからずっと浮かれているイザベルが、満面の笑みでセシリアの両手を握りしめているからだ。


「セシリア、今日は本当にありがとう。とても素敵なサプライズだったわ。トワルがわたくしの肩を抱いたのよ! 愛の歌をふたりで歌ったなんて、夢のようよ!」