(お父様にだって、こんなことをされたことがないわ。どうしましょう。恥ずかしくてたまらない……)


セシリアがそのような心持ちでいることを知らないクロードは、さらに彼女の心を乱す行為に及ぶ。

両腕でパンプスを抱えている彼女の右手を取ると、腰を落として、その白い手の甲にそっと口づけたのだ。


セシリアの手より少し温度が高く、柔らかな唇の感触に、彼女は意識の全てを持っていかれて驚きに包まれている。

手の甲へのキスは、男性から女性への敬愛の情を示すものであり、クロードの行為に色めいた意味はないのだろう。

それがわかっていながらも、ウブなセシリアは湯気が立ちそうなほどに顔を火照らせて、石のように固まってしまうのであった。


(ク、クロードさんの唇が、私に……。これは夢なの……!?)


唇を離し、彼女の手も放したクロードは、上から差し込む夕日に眩しげに目を細めて微笑んだ。


「親愛なるセシリア様、この度のご活躍も国王陛下にご報告いたします。人助けの課題はあとひとつですね。セシリア様でしたら、きっとやり遂げると信じております」