お店を出て


「駅まで送るよ。」


「悪いね。」


そう言葉を交わした私達は、ファミレスにいる時とは一転、黙々と歩を進める。


別れの時間が近づいて来ている、もう私達が一緒にいる理由はなかった。そして、次にまた会う約束を交わす理由も見当たらない。私が胸の中に秘めている思いを口にしない限り。


「皮肉なもんだな。」


「えっ?」


「あの時、君への未練を断つために、君の知らないとこへ引っ越し、君への連絡ができないように携帯を変えたはずなのに。でも久しぶりに携帯を持った今、登録されてる番号は、バイト先とそこの店長の以外には、君の番号だけだ。」


「私への未練・・・?」


突然ポツンとつぶやくように言った元夫の言葉に、私は驚く。


「君と正式に別れた日、僕は見送ってくれてる君の姿が見えなくなるまでは、頑張ってたけど、角を曲がった途端、車を止めた。涙で前が見えなくなったからだ。あの時の僕には、君と本当に別れてしまったことへの後悔しかなかった。」


急になんでそんなことを言い出したのだろう・・・?私がどんなに願っても、頑として、離婚を譲らなかったこの人が、実は後悔していたなんて。とても信じることが出来ない。


「その前に、話し合いをしたよね。僕が帰って来てることを知った君は、僕の胸に飛び込んで来てくれた。そんな君を、僕は一瞬だけど、しっかり抱きしめてしまった。嬉しかった、君の唇を奪い、そのまま抱き上げて、寝室に運んでしまいたい、今ならやり直せる、正直そう思った。だけど・・・出来なかった。」


「どうして?」


思わず問いかけてしまった私に、元夫は寂しそうな表情を浮かべると言った。


「怖かったんだ。」


「怖、かった・・・?」


それは意外な言葉だった。



「君は僕の妻であることを決して怠ることはなかった。いつも僕に笑顔を向けてくれていたし、僕を蔑ろにしたことなんか、1度もなかった。だけど、その笑顔の裏で、君は浮気をしていた・・・。」


「・・・。」


「君を許したい気持ちはあった。だけど、許したあと、君を信じ切る自信がなかった。いつも君を疑いながら、一緒に暮らすなんて、耐えられない、それに、もしもう1度、同じことが起こってしまったら、たぶん僕は壊れてしまうだろう。そうなってしまった時には、ひょっとしたら、僕は君の命を奪ってしまうかもしれないって。そんな自分が怖かった・・・。」


その言葉に私は、愕然と元夫の顔を見た。