今まで言えそうで、言えなかったこと。

私からお誘いの言葉を投げ掛けたとき、ユウくんは少しだけ目を見開いた。

そして、黙り込む。



「もしかして、都合悪いかな」

「いや、大丈夫。明日、絶対早く仕事終わらせるから」



異様に早口になるユウくんに、何故だか笑みが堪えきれなくなる。

──夢じゃ、ないんだ。

そう思えたのは、彼の素が見えた気がしたから。

もし、これが演技だったとしたなら、もう感心するしかない。

「もし、演技だったら」と思える程に、仮にそうだったとしても、見抜けない程に、正にこの反応が彼の今の本心なんだと信じられる。

何だか、むずむずする。



「うん。じゃあ、明日こそは、ね」

「ん。楽しみにしてる」



「じゃあ、また」とジャケットを掛けていない方の腕を、控えめにひょいっと上げる。

ようやく歩き出したユウくんの真似をするように、手を振った。

そうすれば、ユウくんは下唇を噛む。

あからさまに伝わってくるものが、私には慣れなくて、とてもむず痒い。

彼の後ろ姿を、少しの間だけ見送った。