「お疲れ」
「え、どうしたの……経費の申請?」
「いや、違うけど。外回りから帰ってきたとこ」
「そうなんだ」
「うん」
そこには、ユウくんが立っていた。
上のジャケットは左腕に抱え、ワイシャツ姿で居る。
珍しい。
ユウくんは、業務の内容以外で、うちの部署までやって来ることは、ほとんどと言って良いほど無い。
「……急に来て、ごめん。ちなみに、今夜は空いてる?」
どきり、とした。
これは非常に複雑な「どきり」だ。
ときめきでもあるし、冷や汗が浮き出るような感覚でもある。
来た! と思ったのも事実だし、とうとうお誘いが来てしまった、と困ったのも事実。
そして、何より今日は断らなければならない。
「今日は」じゃない。
「今日も」だ。
今回は、カウンセリングの日だから。
どんな風に言えば良いのか迷う私を、彼はただ待ってくれている。
「あ、の……ごめん。今日は先約があって」
ユウくんの動きが、一瞬止まる。
それでも、すぐに戸惑いの笑みを浮かべた。
「そっか。了解」
「うん、ごめん……」